Lecture 4

古賀 淳一 氏
第一三共株式会社専務執行役員・研究開発本部長

Science / AAASJapan & Science / AAAS:
For the Future of Science and Innovation in Japan

若手研究者から革新を生み出す

産業界の立場からは、第一三共株式会社の専務執行役員兼研究開発本部長である古賀淳一氏より、「学術研究に対する期待と革新的な創薬のための共同研究(Expectation on Academic Research & collaboration for Innovative Drug Development)」と題した講演が行われた。

第一三共株式会社は創業以来100年以上の歴史を持つ製薬会社であるが、他の大型製薬会社と同様、その市場をグローバルへとシフトしてきた。製薬会社にとって海外市場への拡張は、 より特化した領域(例えば腫瘍学など)を持たなければならないことを意味する。第一三共株式会社は、高品質の低分子化合物を開発してきたが、2012年に生物学研究の促進を目的とした社内機能を確立して、バイオ医薬品に焦点を移した。若手研究者らによって主導されたこのR&Dにおける転換は、社内のマインドに大きな変化をもたらすことに貢献し、これらの若手研究者には、抗体薬物複合体、ペプチドおよび核酸の技術を用いた「次の波(next wave)」の治療薬の開発において優れた成果を上げることが期待されている。

基礎研究が重要であるとの認識に基づいて、第一三共株式会社は「オープンイノベーション」の活動への取り組みを開始した。最初の例は、科学技術の振興とバイオ医薬品の開発を目的として日本の経済産業省(Ministry of Economics, Technology and Industry:METI)により創設されたBio Consortiumへの参加である。このプログラムは、次世代バイオ医薬品製造技術研究組合(Manufacturing Technology Association of Biologics:MAB)へと受け継がれ、最近ではいくつかの学会や大学をも含め、学術団体と製薬会社における相互活性化の促進を図っている。

さらに、第一三共株式会社は、独自のアプローチでオープンイノベーションを促進するためのもう一つの活動として、産業革新機構(Innovation Network Corporation of Japan:INCJ)と開発事業を行っている。これはINCJが設立したOrphan Disease Treatment Institute(ODTI)との共同開発で、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬開発を、第一三共株式会社が松尾雅文教授(神戸学院大学)の協力を得て行っている。First in humanの第1/2相試験が現在進行中である。さらに第一三共株式会社は、次世代治療薬の開発を目的としたいくつかのオープンイノベーションプロジェクトに関わってきた。そうした治療薬として、腫瘍溶解性ウイルス治療薬、抗ERK2抗体薬、そして核酸治療薬などが挙げられる。

第一三共株式会社は、創薬のためにTaNeDSという名称のプログラムを創設した。TaNeDSは高額の資金提供は行わないが、様々な分野の若手研究者に向けて開かれたものであり、彼らに経験ある研究者との協働の機会を提供している。この活動を通して、第一三共株式会社のR&Dに携わる研究者の方も、若手科学者のアイデアから刺激を受けることができた。

講演を締めくくるに当たり、古賀氏は基礎研究と応用研究との間の相互活性化の必要性を強調した。「応用研究は基礎研究に基づいている。しかし、基礎研究も応用研究によって刺激を受けることができ」それは「逆のトランスレーション」を介してであると述べた。

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