Lecture 1

Dr. Shirley M. Malcom
Chief Executive Officer and Executive Publisher of Science Family of Journals, AAAS

Science / AAASJapan & Science / AAAS:
For the Future of Science and Innovation in Japan

多様性:科学のための力

Dr. Shirley M. Malcom(Director of Education and Human Resources Programs (EHR), AAAS)は、「もうひとつのインパクトファクター:科学の多様性(The Other Impact Factor AAAS: Supporting Diversity in Science)」と題して講演を行った。インパクトファクターは、科学的な議論への貢献度を示す指標として広く知られているが、Dr. Malcomはこの講演で、AAASが考えるもうひとつ類の「インパクトファクター」について述べた。それは、AAASが単にScienceとその姉妹ジャーナルの発行者であるだけでなく、科学を作り上げるうえで傑出した役割を担ってきたその歴史に基づく考え方である。

Dr. Malcomは、AAAS創立150年を記念して1998年に刊行された、『アメリカにおけるScienceの確立(The Establishment of Science in America)』という本を紹介した。この本には、創生期のAAASの様子が描かれており、これによってAAASは常にオープンであり続けたことを知ることができる。例えば、他の組織とは異なり、AAASは学術会議において女性科学者の研究成果を発表してきた歴史をもっている。その当時、科学研究に従事する女性は多くなかった。天文学者でありAAASの最初の女性メンバーであったマリア・ミッチェルは偉大な例外的存在であった。彼女は、科学教育の領域でも活躍し、後進の多くの女性科学者のために進むべき道を切り拓き、科学教育の礎を築いた。1874年に最初に選出されたフェローの中には、MIT初の女性教員となったエレン・スワロウ・リチャーズが含まれている。社会科学者であるW. E. B.デュボイスは1900年にアフリカ系米国人として初のメンバーとなり、後にフェローに選出された。さまざまな不寛容の壁と戦いながら、科学コミュニティに参加してきた全ての人に対して、AAASは活動の場所を提供したのである。

1960年代末には、AAASではMina Reeseが初の女性代表として選出された。その後、AAASの代表にはマイノリティ・グループからも代表が選出されるようになり、女性の割合は40%以上に達している。AAASの歴代代表、執行委員および幹部たちの肖像は、ジェンダーと人種の多様性を示しているだけでなく、意見、アイデアそして学問分野の多様性をも示している。

AAASはまた、社会を変化させる必要性に応えるための活動も行っている。一例を挙げると、SACNAS(Society for Advancement of Chicanos and Native Americans in Science)は、AAASとの特別な歴史的関係のもとに創設された。さらに、AAASは若い世代にとっての科学における様々な懸念事項、障害、および「ダブルバインド」(例えば、マイノリティの人種に属する女性研究者)に取り組むために、多様性と差別に対する解決策を提案し、発言を行ってきた。組織内では、最近AAASの委員会ではハラスメントなどの不正行為が認められた場合に、選出されたフェローから資格をはく奪することに関する方針が承認された。別の例としては、1976年ボストンでのAAAS年次集会から始められた、障害を有する科学者のための完全にアクセス可能な会議の導入が挙げられる。

非営利組織であるAAASは、企業を含めたあらゆる組織に対して、多様性の価値を認識してもらうための機会を提供している。AAASの法的な取り組みとしては、高等教育機関などの組織に対して、多様性を可能にし、その活動の中に多様性を組み込むよう働きかける活動がある。

多様性を実現するための活動は米国内にとどまらず、世界中で行われてきた。AAASは、科学と技術の分野に携わる女性のためのさまざまな会議の開催に貢献し、アフリカでのNairobi Conferenceを始めとして、中東、アジア、中南米でも女性のための活動を行ってきた。このような活動には、世界中の地域の様々な組織や科学者を結びつけるネットワークの構築も含まれる。また、AAASが行ってきた教育のための活動には、大学教育において多様性や包含性(inclusion)の認識を促すための取り組みであるSEA Changeなどが挙げられる。

Dr Malcomはこう述べる。AAAS/Scienceが「科学と科学コミュニティを代表して」目指すのは、「科学者たちがオープンで、多様であり、全ての人が科学の力を担えるよう喜んで支援しなければならないという決意」を表明する存在となることである。

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