- 2022.02.04
- Science
Breakthrough of the Year 2021日本語版が公開されました
Breakthrough of the Year 2021日本語版がようやく仕上がってScienceのオンラインページに掲載されている。2021年の最も画期的な科学の発見は、
「すべてのタンパク質の構造を明らかに:AIを用いた予測が、タンパク質の形状の秘密を明らかにする
(Protein structures for all: AI-powered predictions show proteins finding their shape)」である。
「1972年にノーベル化学賞を受賞した米国の生化学者Christian Anfinsenは、その受賞スピーチの中で、一つのビジョンを示した。やがて、あらゆるタンパク質の3次元構造について、その構成要素であるアミノ酸の配列だけから予測することが可能になるだろう。ヒトの体内だけでも何十万ものタンパク質が存在するため、そのような進歩によって幅広い応用が可能となり、基礎生物学に多くの洞察をもたらし、有望な新規の薬物標的を明らかにしてくれるであろう、と。現在ほぼ50年の歳月を経て、研究者らは、人工知能(AI)駆動型ソフトウェアが、何千というタンパク質の正確な構造を明らかにすることを示している。この進歩はAnfinsenの夢を実現するものであり、2021年のScience's Breakthrough of the Yearに選ばれた」と紹介されている。
その他9つの画期的な研究を選んだ。
古代の土壌DNAが日の目をみる
Ancient soil DNA comes of age
化石から抽出されたDNAは、未知の類縁関係を解明し、初期の移動を追跡し、また古代の種間交配を明らかにすることを可能にし、ヒトや動物の進化についての研究を一変させたと。
太陽の核融合が実現する日?
Fusion's day in the Sun?
核融合エネルギーは、素晴らしい成果が約束されながら、決して結果を出さない分野であるが、米国国立点火施設(NIF)は、正式な「臨界」に届きそうで届かなかったものの核融合反応を実現した、のだという。ここでいう「臨界」とは、核融合反応を促進するために必要とされるエネルギーが、核融合反応によってレーザーエネルギーよりも多く生成されるポイントである、と。
有力な薬がCOVID-19に対する装備を増強する
Potent pills boost COVID-19 arsenal
Merck社のモルヌピラビルは、リスクの高いワクチン未接種者においてCOVID-19による入院または死亡のリスクを30%低下させる。COVID-19との戦いでは、ワクチンが花形の役割を果たしてきたが、新たな役者がこの舞台に登場することになった。感染初期に服用すれば発症や死亡を予防する抗ウイルス薬である、と。
幻覚剤を用いたPTSD治療
A psychedelic PTSD remedy
人工抗体が感染症を制御する
Artificial antibodies tame infectious diseases
NASAの探査機が火星の内部を解明
NASA lander uncovers the Red Planet's core
ついに、素粒子物理学の標準理論にほころびか?
At last, a crack in particle physics' standard model?
CRISPRは体内で遺伝子を修復する
CRISPR fixes genes inside the body
胚の「畜産飼育」が初期発生への窓を開く
Embryo 'husbandry' opens windows into early development
悲しい報告もある。
気候目標達成への希望がかすむ
Hope dims for climate target
世界の国々は11月上旬、国連気候変動会議に集まり、地球温暖化に対して産業革命以前のレベルからの上昇を1.5℃以内に抑えることで話し合った。ただ、2週間の議論を経て明らかになったのは、急速な変化が始まっていて、1.5℃という目標は瀕死の状態にあるということであった、と報じている。
アルツハイマー病治療薬が憤激を引き起こす
Alzheimer's drug prompts outrage
薬剤の承認に際し、諮問委員会の委員10名中3名が6月に辞任。「近年の米国史上おそらく最悪の薬剤承認決定」だと非難した、と。現在、この承認過程について、米国保健福祉省の監察長官と米国下院の2つの委員会による調査が進行中であるというから驚きである。
攻撃の的にされる科学者たち
Scientists under fire
COVID-19パンデミックをめぐる政治的な対立が、一般市民の間に科学者に対するかつてない敵意を引き起こし、オンラインやオフラインでの脅し、抗議、さらには殺害の脅迫などがみられた。半数以上が自身の信用性に対して攻撃され、15%が殺害の脅迫を受けていたことが判明した。多くの研究者は、このような体験から今後公に発言する意欲が失せたと述べている。
翻訳者たちが素晴らしい日本語に仕上げてくれた。
最後に関係者に心から謝意を伝えたい。
是非ここから本文を読んでほしい。
https://www.science.org/content/page/japanese-translation-breakthrough-year