- 2020.10.08
- Science
ウェブセミナー開催時にいただいた質問について:第5回Science Cafe
第5回Science Cafe: ウェブセミナー開催時にいただいた質問について
ウェブセミナーの際にご質問いただいておりましたが、時間の関係でご紹介できなかったご質問について、木村先生にご回答いただきましたので、以下の通りご紹介させていただきます。
質問1: 腸内細菌、オメガ3、MCTオイル、など現在では一般的にも良く耳にする言葉ですが、先生がご研究を始められた時にはどうでしたでしょうか。ご研究を始められたきっかけなど教えて下さい。
木村先生回答:
私が研究を始めたころから、既にその機能性は調べれられており、色々な良い機能の報告はされておりました。しかしながら、その分子作用機序に関しては、ほとんど理解されておりませんでした。研究の成果が一般に知られるのは数年かかると言われますが、現在、一般的に知られているのは、以前から知られていた効果の部分のみだからこそ、沢山食べれば、健康になるのような、誤解を生じ、偏った食生活になりがちなのかもしれません。数年経って、近年の分子作用機序の理解が一般にも浸透すれば、栄養センサーをターゲットとした、本来の恒常性を頑強にできるような食生活が薦められていくのではないでしょうか。 また、本研究を始めたきっかけとしましては、そもそも薬学部でしたので、創薬標的として純粋にGPCRの機能解析を行うことで代謝性疾患などの治療薬への応用に結び付けようと考えていただけでした。しかしながら、研究対象であった脂肪酸受容体が、腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸や、食用油である多価不飽和脂肪酸により活性化されるということを知った時、ちょうど、薬学部から、農学部に異動したころだったので、農学、つまり食からの視点で脂肪酸受容体を評価できないかと考えたのがきっかけでした。さらには、近年のメタボローム解析技術の進展により、食由来の代謝産物の一斉分析が可能になったことで、今まで評価が難しかった食機能性を我々の得意とする受容体の観点から分子作用機序の解明が可能になったことで、現在の研究へと繋がっていきました。
質問2: 医食同源とは言うものの、食では「予防」、「治療」という表現が市場において許可されていない。医薬品の効果効能の検証のための研究ツールとか研究スタンスとかのみをベースに食の研究をするのではなくて、食独自の研究ツールとか生理機能を解明するような、全く新規の食・栄養の研究の掘り下げというものが大事であると感じる。食・栄養の、生理機能に関する研究が、医薬研究のツールのちょっと端っこの方を借りてやるのではなく、本来は食独自の研究展開ができ、エビデンスを明確にできれば、堂々と食でも予防や治療の効果が訴求できると感じる。先生は食の生理機能解明の研究ツールについて医薬品開発研究との比較の観点でどのようなお考えをお持ちでしょうか。
木村先生回答:
時代に合ったツールという考えがしっくりするのではないでしょうか。食・栄養の研究は単一成分の摂取ではなく、食事によって多種多様の栄養素が体内に入ってくることにより、様々な生理的変化が発揮されるため、従来までは分子論的解析は非常に困難であったと思います。しかしながら、近年のメタボローム解析技術などにより、食由来の代謝物の網羅的計測が可能となったことを始め、さらにそこから、網羅的に栄養シグナルを検討する必要があるため、化合物スクリーニング法などを食由来代謝物群に応用することができるようになりました。だからこそ、今、食の機能性研究が大幅に進んでおり、さらには色々な他の分野からも注目されるようになっているのだと思います。仰る通り、医薬の隅っことか、堂々ととか、そのような考え方自体が無意味であり、どちらもサイエンスとして純粋に追及していけばいいだけのことなのではと思います。そうすれば、表現法も含めて、また時代の流れに伴い、状況は変わっていくのではないでしょうか。
質問3: 現状の食物のカロリー計算はあまり意味が無いと考えてよろしいでしょうか?
木村先生回答:
生体内代謝、エネルギー獲得の観点からもカロリーの考え方は非常に重要です。ただ、カロリーだけで考えるのではなく、栄養素の種類により受容体などのシグナルを介した様々な生理活性も発現することから、カロリーと生理活性とのバランスが重要ということになると思います。
質問4:古典的には小腸は無菌と思いますが、今回のお話は大腸でのお話でしょうか?
木村先生回答:
大腸および小腸下部での話になります。
質問5: 母親のマウスには、短鎖脂肪酸を多量に与えるほど、子の肥満体質は抑制されるのでしょうか。投与の量に、最適な値はあるのでしょうか
木村先生回答:
受容体を活性化できるレベルであり、量が多ければ多いほど、より活性化できるわけではありません。また、短鎖脂肪酸は受容体に対する作用以外にも、エネルギー源や、エピゲノム調節などにも関わっていることから、仰る通り、少ないと問題を生じるが、最適な値があると思われます。
質問6:最後の実験で母親に投与した短鎖脂肪酸はなぜプロピオン酸なのですか?
木村先生回答:
酢酸・プロピオン酸・酪酸とも試しましたが、一番効果が顕著だったのがプロピオン酸でした。おそらく、3種の短鎖脂肪酸の中でGPR41とGPR43をともに活性化でき、アゴニストとして最も親和性が強いのがプロピオン酸であることも関係しているのかと思われます。
質問7:経口投与したSCFAは血中にまで届くのでしょうか。
木村先生回答:
SCFA経口負荷後の血中SCFA濃度の上昇を確認しております。
質問8: 後半の論文において酢酸などでなくプロピオン酸を使用したのはなぜですか。
木村先生回答:
3種の短鎖脂肪酸の中でGPR41とGPR43をともに活性化でき、どちらの受容体に対してもアゴニストとして最も親和性が強いのがプロピオン酸であることからそうしております。
質問9:腸内細菌代謝産物である短鎖脂肪酸と絶食時に増えるケトン体が同じ受容体に認識されるとのことでしたが、それはつまり、食物を食べた後も食べる前も常にリガンドが存在するような状況ということにならないでしょうか?GPR41やGPR43は常に活性化されているのかなと思ったのですがいかがでしょうか?
木村先生回答:
的確な質問をありがとうございます。これに関しては、栄養環境によって、発現している組織での受容体の発現量も変わります。またGPR41の場合はケトン体がアンタゴニストとして受容体を抑制的に働きます。また、部位によって、ケトン体と短鎖脂肪酸の濃度が弱点するところもあれば、短鎖脂肪酸が有意なままのところがあります。例えば、絶食時、血中では短鎖脂肪酸は減りますが、かわりにケトン体が増えて、元々の短鎖脂肪酸の濃度より高くなるためGPR43は活性化されます。一方で、腸管では、短鎖脂肪酸は減り、ケトン体は増えますが、それでも短鎖脂肪酸の濃度のほうがケトン体より高いのでGPR43は抑制されることになります。その結果、それぞれの栄養環境が変わることで生体応答が変化することになります。
質問10:TH陽性交感神経の組織はどうなっていますか?
木村先生回答:
心臓などへの交感神経の投射が減弱していることを確認しております。