Science

  • 2020.07.01
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第3回Science Cafe 開催(2020年7月29日)

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Science Japan OfficeよりScience Cafeのご案内をさせていただきます。

Science CafeではScience及び姉妹誌にその論文が掲載された日本人研究者の方を講師にお招きし、ご研究内容の紹介のみならず、その発見・成果に至った経緯やマインドセットなど、革新的研究にまつわる貴重なご経験をウェブセミナー形式でお話しいただきます。

毎月1回ライブでお届けする学術的、啓蒙的なウェブセミナー、Science Cafeに是非ご参加下さい。

今回は慶應義塾大学 薬学部 生化学講座 教授 長谷耕司先生にご講演いただきました。

講演日時

2020年7月29日(水) 14:00-14:40(予定)

講演者: 長谷 耕二先生  

ScienceCafe_DrHase.jpg慶應義塾大学 薬学部 生化学講座 教授 

Science 2020年2月28日号掲載 "Maternal gut microbiota in pregnancy influences offspring metabolic phenotype in mice"
https://science.sciencemag.org/content/367/6481/eaaw8429.full

講演テーマ:「免疫と共生」

腸管粘膜は、食事とともに摂取される病原体や数十兆個にもおよぶ腸内常在菌に曝されており、感染の危険と隣り合わせにあります。そのため腸管は多くの末梢リンパ球が集まる生体内最大の免疫器官としての側面を有しています。腸管免疫系の基盤は胎生期に作られ、腸内細菌の定着によって成熟します。腸内細菌は食物残渣を分解して宿主にエネルギー源を提供する一方で、宿主は免疫寛容によって過剰な免疫応答を抑制し、腸内細菌の定着を容認しています。

本セミナーでは、免疫と共生の成り立ちやその意義について解説していただきます。

過去のScience Cafe

第1回:「セレンディピティ」と「ぶれ」と「ずれ」
東京医科歯科大学 統合研究機構 先端医歯工学創成研究部門 創生医学コンソーシアム 教授
武部 貴則 先生

第2回:「スロー地震ってなんだ?」
京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 学振特別研究員 西川 友章先生

Science Café in Japan のご講演者およびご参加の皆様へ

Publisher of Science Family of Journals, AAAS のMr.Bill Moranからのメッセージ

お問合せ先

Science Japan Office 担当:吉川/谷 
E-mail: science_cafe@asca-co.com

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ウェブセミナー開催時にいただいた質問について

ウェブセミナーの際にご質問いただいておりましたが、時間の関係でご紹介できなかったご質問について、長谷先生にご回答いただきましたので、以下の通りご紹介させていただきます。

質問1:宿主の食べ物の多様性と腸内細菌の多様性の関係に関する最新の知見を教えてください。

長谷先生回答:

一般的には腸内細菌は菌種によって資化できる糖類が異なっているため、多様なMACsを摂取した方が、菌種の多様性は増すと想像できますが、きちんとした検証は為されていないように思います。

質問2:1974年にニールス・イエルネがパスツール研究所で行った講演(免疫システムのネットワーク理論)のなかで、リンパ球は神経細胞と同じ機能をもち、違いは数が免疫細胞のほうか百倍多いことと、ネットワークがシナプス接続ではなくて、モバイルアドホックネットワークであることだと言っています。このことは現代の免疫学では、常識ですか。常識ではないですか。

長谷先生回答:

イディオタイプ抗体に代表されるイェルネの免疫ネットワーク理論は非常に斬新でしたが、完全に証明されていない部分も多いと思います。

質問3:腸内細菌の定着の初動は,まずは母親の初乳によって誘導されるのでしょうか?

長谷先生回答:

初乳の影響がどの程度かわかりませんが、少なくとも母乳は乳児腸内細菌叢の構築と維持には重要です。
母乳にはヒトミルクオリゴ糖が豊富に含まれており、ビフィズス菌などの増殖を促進します。

質問4:腸管免疫系の基盤は胎生期に作られる中で、食生活の改善によって、いわゆる保健機能食品の積極的な接種によって、どの程度の腸内免疫系が増強され、全身の免疫機能の向上=丈夫で頑強な体、さらにはウイルスにも抵抗力のある体の形成に役立つのでしょうか。

長谷先生回答:

腸管関連リンパ組織の原基は胎生期に作られますが、生後に腸内細菌や食事に曝露されることで成熟することが知られています。現在、新生児〜乳児期のマイクロバイオームや、離乳期における腸管免疫系の一時的な活性化(weaning reaction)が、その後の免疫学的体質の形成に重要な役割を果たしていることが分かってきました。そのため、機能性食品やプロバイオティクスにおける早期介入により、免疫系を適切なバランスに導くことが可能かもしれません。

質問5:新型コロナウイルスは腸とも関係があると最近言われ始めました。免疫の観点から、先生はいかがお考えでしょうか。

長谷先生回答:

講演内で触れた通りです。

質問6:疾患とmicrobiotaは腸内細菌叢ばかりでなく上気道や肺も大切かと思いますが、いかがでしょうか?菌種を特定しにくいという側面もあるかと思いますが。

長谷先生回答:

疾患発症における呼吸器や皮膚のマイクロバイオータの重要性が明らかになりつつあります。

質問7:新型コロナウイルスは腸管も感染するとお伺いしております。腸内環境と発症者との関連性で判明していることはありますでしょうか。

長谷先生回答:
講演内で触れた通りです。

質問8:健康な人間と腸内細菌の関係は相利共生だと思います。病気などで悪玉菌が優勢になると、片利共生が起きると考えて良いのでしょうか?

長谷先生回答:
そう考えて良いと思います。

質問9:生まれてからの食事の内容の腸内細菌叢への影響はどの程度

長谷先生回答:質問.3,4の回答をご参照下さい。

質問10:「腸管免疫系の基盤は胎生期に作られ、腸内細菌の定着によって成熟する」とのこと、また腸内細菌は主に食事とともに摂取されるという理解ですが、(1)腸管免疫系の完成はおおよそ何歳頃までかかるのでしょうか。(2)どのようなメカニズムで、無数の細菌に対して免疫がそれらを安全視(免疫寛容)するようになるのでしょうか。これは胎生期ですでにインプットされている(母体から学ぶ、もしくは、ミトコンドリアのようにそもそも存在しているもの=当たり前と認識する)のか、あるいは成長の段階で摂取される各種細菌をまず「害のないものか否か」を判断し、覚えていくのでしょうか。(3)一方、腸内細菌はどのようにして免疫に「共存の許可」をもらうのでしょうか。人体にダメージを与えず(敵としてみなされないようにし)、食物残渣の分解を通してエネルギーを提供する(利益をもたらす)ことにより、永住権を得るのでしょうか。お時間ありましたら、ご教示ください。よろしくお願いします。

長谷先生回答:
概ねそのような理解で宜しいかと思います。詳細は著名な腸内細菌学者であるソネンバーグ夫妻が書かれた「腸科学」をご参照下さい。

質問11:現在開発中の各社のCOVID19ワクチンの免疫原性ですが、投与前の4倍程度の有効性は認められいます。なお、国内外のガイドラインにおいても4倍以上と規定されていますが、この4倍は十分量と想定可能でしょうか?それとも8~32倍は欲しいところでしょうか?

長谷先生回答:
専門外のため詳細な回答は控えさせて頂きますが、一般的に効果が強いと副作用も強くなる傾向があります。つまり、安全性とワクチン効果にはある種のトレードオフの関係があると言えますが、可能な限り安全性が高く効果的なワクチン開発が求められています。

質問12:ヒトのエネルギー吸収の主体は小腸のはずですが、なぜ大腸の細菌叢が肥満などエネルギー代謝に関与するのでしょうか

長谷先生回答:
大腸は微生物発酵を行う事で、食物残渣からのエネルギー抽出をしています。身体全体で消費するエネルギーの1割程度がマイクロバイオームに由来するとされています。肥満マイクロバイオームはエネルギー抽出効率の増加に加え、バリア低下と炎症を誘発します。肥満は軽度の炎症(metabolic inflammation)が疾患発症の素因となっていることから、肥満は加速すると言われています。

質問13:ペストはどのようにして、収まったのでしょうか?

長谷先生回答:
ペストは14世紀の大流行の後も17世紀くらいまで度々ヨーロッパを襲いました。何度も感染に見舞われる打ちに、人々は検疫・隔離に加えて、密を避ける工夫をしてペスト感染を避けるようにしました。例えば、17世紀のロンドンを舞台としたダニエル・デフォー「ペスト」では、感染を防ぐために芝居、歌踊音曲、宴会などの禁止措置という描写があり、まさに3密を避ける対策が実施されていることが分かります。また、度重なる大流行の結果、ペストに強いMHC(抗原提示能)を持った人々が生き残ったと思われることや、都市化が進むにつれてクマネズミ(ペスト菌キャリア)がドブネズミに駆逐された事なども背景にあると思います。

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