コラム

  • 2019.06.03
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医療現場のつぶやき :「逆側から見ると...」

「逆側から見ると...」

自分の人生の中の転換点というものはいくつかあるのですが、それはあくまでも振り返った時にあれが転換点だったなとわかるだけで、その当時はそれが転換点になるとは思っていませんでした。その時はただちょっとした何かを決めただけで。

最近、少し自分の仕事について振り返る機会があって、あの時自分は転換したんだなと思うことがありました。
それは大学院を卒業して、別の大学に就職した時です。いや、それは明らかに転換だろう、と思われると思うのですが、自分にとってはこのこと自体が転換だったわけではないのです。

私はずっと認知心理学の研究領域で、知的障害のある人の「不器用さ」のメカニズムについて研究していたんです。ところが、次の就職先の研究室では、生活支援工学の研究領域で障害支援技術による不自由の解消について研究することになったのですね。
心理学から工学へ、これが私にとっての大きな転換点でした。
「だから何?」って思われました?思われますよね。
いや、まあもう少しお付き合いください。

みなさん、心理学ってどんな学問領域だと思いますか?これは異論反論あると思いますけど、私の解釈では心理学というものは人間の「パフォーマンスの背景にあるメカニズムの解明」が目的になる学問なのです。一方で工学というものは「メカニズムを利用したパフォーマンスの制御」が目的になる学問なのです。端的にいうと、心理学は「解明」が目的で、工学は「制御」が目的だと私は解釈しています。

基本的な思考パターンは、解明が目的になると「なぜ〇〇なんだろう?」になり、制御が目的になると「どうすれば〇〇ができるだろう?」になるのですよね。
これこそが私にとっての転換点だったわけです。
「なぜ〇〇なんだろう?」と今まで見ていたものが、「どうすれば〇〇できるだろう?」と見ることによって全く別のものがアウトプットされるようになりました。例えば、靴ひもが結べない人がいたとして、その人を見たときに、それまでは「どうしてうまく結べないんだろう?」と考えていたのが「どうすればうまく結べるだろう?」と考えるようになったわけです。
いや、どちらのアプローチでも最終のゴールは同じになることも多いんですよ。先の例だと、解明型アプローチの場合は、うまくいかない理由を解明して対策を考える、ということになりますし、制御型アプローチの場合は、うまく行く方法を見つけてその方法を洗練させていく、ということになります。結局はうまくいかなかったものがうまくいくというのがゴールになるんですよね。
でもこれ、実際にやってみると全然違うんですよ。実際に何かがうまくできなくて悩んでる子どもを目の前にしたとき、なぜキミはうまくできないのかということを説明してあげるよりも、こうすればうまくいくよ、と提案してあげる方が子どもとしては受け入れやすいわけです。できないことに対してなぜできないのかを説明されてもまあ楽しい気持ちにはならないですよね。
でも、実はこういう提案はメカニズムがわかってないといい提案にはならないんですよね。というわけで、解明も制御も両方必要なんです。その両方の視点を持てた、という点においていい転換点だったなと思うわけです。

滋慶医療科学大学院大学 医療管理学研究科 准教授
岡 耕平

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