コラム

  • 2018.09.20
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医療現場のつぶやき

photo_entry01.jpgここでは、医療現場からの本音トークや、AI情報など、是非とも知ってほしいユニークな情報を発信します。初回は、「医療現場のつぶやき Part 1」、AI情報についても方針をお知らせします。

はじめまして、滋慶医療科学大学院大学の岡耕平と申します。
今回から毎月1回のショートコラムを発信します。私の専門は認知心理学で、医療や福祉の領域における人間の適応行動について研究しています。私の"医療現場"とは、福祉施設や医療関連施設、初等中等教育機関などの現場を指すわけで、そこで見つけた、考えた様々なアイデアを、外野からの自由な視点で紹介しようと思います。

第1回「自分の当たり前は他人にとっては違うかも」

「自分の思う当たり前のモノサシが他人にとっても当たり前である」という信念を人は持ちやすいんですよね。こういうことが医療現場では事故につながったりします。

指導学生との共同研究で看護師と患者の時間に関する捉え方を比較したことがあります。
先日開催された看護管理学会での発表で、演題は「転倒転落事故低減のためのコミュニケーションの検討―看護師と患者における待機時間の認識の違い―」(野々村・山中・岡)でした。

研究のきっかけは学生の話。「医療事故で一番多いのは『転倒・転落』なんです。患者さんからのナースコールで、看護師が患者さんのところに行くまでに自分で移動しようとして転んじゃうんですよね...」と話すのを聞いて、患者はなぜ待てないんだろう?と思ったのがきっかけです。

たぶん患者は待てないんじゃなくてちゃんと待ってるんじゃないか?待ったうえで待てなくなって自分で歩いちゃうんじゃないか?という議論になりました。

例えば患者がトイレに行きたくなってナースコールを押すとします。そこで「すぐ行きます」とか「少しお待ちください」とか言われるわけですよね。そう言われたら患者本人はすぐ(30秒くらいで)来るんだなと思って待つわけです。で、看護師はすぐ(1分くらいを目標として)行こうとするわけです(実際はもう少し遅れる)。で、30秒待った患者が、(30秒)待ったのに来ないじゃないか、と思って自分1人で立って歩いて転倒するというストーリーです。

実際に調査をしてみました。とある県の3つの病院に勤務する看護師 300名と急性期病院 1 施設に入院中の70歳 以上の患者100名にアンケートをとりました。

「いま」「すぐ」「すこし」「しばらく」という言葉について、それぞれ何秒だと思うかと尋ねたところ、看護師と患者で想定する時間がズレるんですね。患者の方が短く捉える傾向があります。そして、そのズレは「いま」→「すぐ」→「すこし」→「しばらく」の順で大きくなります。

調べてみるとやっぱり実際に同じ言葉でも捉え方が異なるんですよね。そりゃ待てないはずです。

もう1つ面白いのは、看護師同士でも想像する時間がバラつくんです。「すぐ」を5秒程度だと思っている看護師もいれば、80秒程度だと思っている看護師もいるわけです。こうやってコミュニケーションの「エラー」が生まれるわけです。

たぶん「すぐ」とか「すこし」とか言わずに「2分お待ちください」みたいに具体的な数字で伝える方が誤解は少なくなりますよね。実際にその通りの時間で行けるかどうかはまた別の問題として残りますが。

日常のなかで使う何気ない言葉も、人によってその中身が違う、ということを頭の片隅に置いておくと良いかもしれませんね。

滋慶医療科学大学院大学 医療管理学研究科 准教授
岡 耕平

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